星の道と傷のあと
Bob Dylan “Where Are You Tonight? (Journey Through Dark Heat)”
1978年。
ディランが“燃え尽きたまままだ燃えてた頃”。
アルバム『Street-Legal』のラストを飾ったのが、この曲。
離婚、名声、宗教、ツアーの疲れ。
全部がぐちゃぐちゃで、
それでもギターを置けなかった時期。
“Journey Through Dark Heat”——
暗い熱の中を旅する。
この副題が、すべてを物語ってる。
店を閉めて、
カウンターの上を拭く。
グラスの底に赤が少し残ってて、
音楽が静かに鳴ってる。
外は雨。
窓の向こうから、喧騒の声。
こんな夜は、だいたいディラン。
この曲は、
どこにも行けないのに走り続ける人の歌やと思う。
There’s a long-distance train rolling through the rain
Tears on the letter I write
雨の中、長距離列車が走る。
書いた手紙に涙の跡。
この“I”は、
ディラン自身であり、
もうひとりの「自分を見ている自分」でもある。
動くことでしか、生きている気がしない。
止まったら終わる。
そんな息遣いがする。
“She”と“You”。
ふたつの言葉がこの曲の心臓やと思う。
She bathed in a stream of pure heat
If you don’t believe there’s a price for this sweet paradise
Remind me to show you the scars
“She”は現実の愛、
“You”は理想の面影。
彼はそのあいだで立ちすくむ。
愛しているのに、
触れた瞬間に壊れてしまう。
信じたいのに、信じた途端に逃げていく。
それでも「歌う」ってことが、
彼にとっての祈りやったんやと思う。
He took dead-center aim but he missed just the same
“He”は外の世界。
ルールとか、正しさとか、神とか。
完璧を狙っても、いつも少し外れる。
そのズレの中で、ディランは歌う。
「それでも、まだ行ける」と信じながら。
There’s a white diamond gloom on the dark side of this room
And a pathway that leads up to the stars
部屋の暗闇の奥に、
星へと続く細い道が見える。
そのあとに続くのがあの一節。
If you don’t believe there’s a price for this sweet paradise
Remind me to show you the scars
星と傷。
光と痛み。
希望と代償。
ディランは、それを同じ場所に置いた。
それが彼の「生きてる証」なんやろう。
There’s a new day at dawn and I’ve finally arrived
If I’m there in the morning, baby, you’ll know I’ve survived
夜が明ける。
まだ生きている。
ただ、それだけ。
それだけでええんやと思う。
巣鴨の夜。
雨の匂いと、ワインの残り香。
この曲を流すと、
星と傷のあいだにある“静かな熱”が、
ふっと戻ってくる。
🎧 今夜の一曲
👉 Bob Dylan “Where Are You Tonight? (Journey Through Dark Heat)” – Amazon Music
👉 『Street-Legal』 – Spotify
📘 『Lyrics 1962–2001』(Amazon)
🍷 この夜に合わせたいワイン
ポルトガル・ネグラモル 2020(楽天市場)
煙のようにやわらかくて、
少しだけ“dark heat”を感じる味。
