墓石みたいな夜に──Tombstone Blues と巣鴨の風

Bob Dylan / Highway 61 Revisited (1965)

1965年のアメリカは、

ベトナム戦争、黒人差別、学生運動、政治の混乱……

国全体が“熱を持った深夜”みたいな時代やった。

ディランはその年、

アコースティックギターを置いて、

エレキを手に取った。

ニューポートでの「電気化事件」もあって、

ファンやメディアから叩かれ、

世界との距離が一気に広がった時期。

そんな“世界のざわつき”と“自分の孤独”が

ぐちゃぐちゃに混ざって生まれたのが、

Highway 61 Revisited。

その中でもいちばん火花が散ってるのが、

「Tombstone Blues」。

扉の向こうに、歪んだ世界が広がっている

歌は冒頭から、

まるで幻覚の街を歩くみたいなリズムで始まる。

“The sweet pretty things are in bed now of course”

かわいいものたちはもう寝た。

つまり残っているのは、

「夜の裏側だけ」。

“The city fathers are trying to endorse

The reincarnation of Paul Revere’s horse”

町の偉い人たちが、

ポール・リビアの“馬”の生まれ変わりを承認しようとしている。

この意味不明さは、

1965年のアメリカの混乱そのものでもあるし、

2025年の東京の夜にも意外と通じる。

夜の巣鴨にも、

正しさとも間違いともつかない噂がふっと流れる瞬間がある。

それとディランのカオスは、どこか同じ匂いがする。

「Mama’s in the fact’ry」──当時のアメリカの影

サビはこうだ。

“Mama’s in the fact’ry, she ain’t got no shoes

Daddy’s in the alley, he’s lookin’ for the fuse

I’m in the street with the tombstone blues”

これはただのダダ詩じゃない。

1960年代半ば、

低賃金と労働問題、貧困の広がり、

崩れかけた家庭、疲れた大人たち──

そんなアメリカの影を

ディランなりに、

皮肉と笑いで包んで吐き出したものや。

Mama の裸足は “貧困”。

Daddy が探すのは “ヒューズ=起爆装置” でもあり “光”。

そして“僕”は街に投げ出されている。

巣鴨の深夜にこのサビを聴くと、

不思議と胸に落ちてくる。

働き疲れた人の影は、

時代も国もあまり変わらんのかもしれん。

ディランが世界を“笑って撃ち抜いていた頃”

Tombstone Blues の魅力は、

全編に漂う “不条理への笑い” にある。

“The sun’s not yellow — it’s chicken”

太陽は黄色じゃなくて「臆病者」。

こんなふざけた比喩なのに、

世界に対する怒りや虚無が

まっすぐ飛んでくる。

当時のディランは、インタビューでもよく

「世界は冗談や」と言っていた。

自分の歌が政治を変えるわけでもなく、

混乱を止めるわけでもない。

でも、世界が狂っているなら、

その狂気をそのまま書いたろう──

そんな勢いを感じる。

聖書も映画も歴史も、ぜんぶぶん投げる

“John the Baptist after torturing a thief…”

“Jack the Ripper…”

“Delilah…”

“Cecil B. DeMille…”

聖書、犯罪史、神話、映画、寓話、

全部がごちゃ混ぜに出てくるけど、

一本の物語にはぜんぜんならない。

でもこれは “意味不明にするための意味” や。

歴史も宗教も真理も、

全部グラグラ揺れて、

何を信じたらええか分からん時代──

その混乱こそが、この曲の正体。

1965年のアメリカは、

国全体がこのカオスの中にいた。

今の東京だって、

似たような渦に飲み込まれている気がする。

最後にポロッと落ちる、真面目な一行

曲のラストにはこんな一節がある。

“I wish I could write you a melody so plain

That could hold you from going insane”

あんなに荒れ狂っていた歌の最後に、

突然こんな弱くて優しい言葉を落とす。

「あなたが狂わないように、

ただそれだけのための、

素朴なメロディを書けたらいいのに。」

この一行だけで、

ディランという人間の正体が

ふっと透けて見える。

どれだけ世界が壊れていても、

誰か一人の心を守りたい夜がある。

そんな気持ちを隠しきれへん人なんや。

巣鴨の夜の静けさの中でこの曲を聴くと、

その優しさだけが最後に残る。

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Text by Bob MyLan

巣鴨のワインバー店主より