働く夜に灯る歌──Workingman’s Blues #2 と巣鴨の風
Bob Dylan / Modern Times (2006)
2006年、ディランは65歳。
アメリカは戦争のただ中で揺れ、
景気は不安定、格差は広がり、
“働く人間の歌” がどこかに置いてけぼりになっていた時代や。
そんな空気の中で生まれたのが Modern Times。
タイトルの “モダン” とは裏腹に、
歌の奥には古いアメリカの埃と、
労働者たちのため息が静かに沈んでいる。
“Workingman’s Blues #2” は、
そのアルバムの中心に置かれた“静かな讃歌”や。
怒鳴らず、訴えず、
ただ働く身体の震えをそのまま歌う。
“There’s an evening’s haze settling over the town
Starlight by the edge of the creek”
街がゆっくり夜に沈んでいく。
巣鴨の商店街の灯りも、夕方6時を過ぎると
少しずつ温度を失っていく。
“The buying power of the proletariat’s gone down
Money’s getting shallow and weak”
遠い国のことを歌っているようで、
いまの東京にも影が重なる。
材料費、光熱費、仕入れ。
じわじわ重くなる数字の向こうに、
働く人の息づかいがある。
武器を置く夜のこと
“My cruel weapon’s been laid back on the shelf
Come and sit down on my knee”
武器を置いた夜というのは、
戦いが終わったというより、
「今日はここまでや」と
自分をそっと座らせる時間。
“I’m listening to the steel rails hum
Got both eyes tight shut
I’m just trying to keep the hunger from
Creepin’ its way into my gut”
飢えが胸の奥から広がらんように、
目を閉じて息を整える。
働くって、こういう“静かな戦い”の積み重ねなんやと思う。
巣鴨のミランでも、
深夜の仕込みでふと立ち止まる瞬間がある。
“底”で待ち合わせる優しさ
“Meet me at the bottom, don’t lag behind
Bring me my boots and shoes
You can hang back or fight your best on the front line
Sing a little bit of these workingman’s blues”
底まで落ちた時に、
「そこで会おう」と言ってくれる歌がある。
戦える日も、ぼろぼろの日も、
どっちでもそのままでええ。
このサビが流れるだけで、
深夜の店内の空気が少しだけやわらぐ。
上手くいかない夜もある
“I’m trying to feed my soul with thought
Gonna sleep off the rest of the day”
心を保つために考えて、
あとは丸ごと眠ってしまう日。
“Sometimes nobody wants what you got
Sometimes you can’t give it away”
誰にも届かん夜もある。
価値のないように感じる日もある。
でも、それも働く人間の“呼吸”みたいなもんや。
人が忘れても、星は回る
“They burned my barn and they stole my horse
I can’t save a dime”
何もかも奪われるような夜もある。
“It’s a cold black night and it’s midsummer’s eve
And the stars are spinning around
I still find it so hard to believe
That someone would kick me when I’m down”
真夏なのに冷たい夜。
倒れた時に蹴ってくる人もいる。
それでも、空の星はずっと回り続ける。
巣鴨の夜空にも、
こういう“静かな回転”がある。
最後に残るのは、働いた人だけの誇り
“The battle is over up in the hills
And the mist is closing in
Look at me, with all of my spoils
What did I ever win?”
勝ったか負けたか、よくわからん人生もある。
戦いが終わったあとに残るのは、
小さな傷と、小さな誇りだけ。
“Some people never worked a day in their life
They don’t know what work even means”
働いたことのない人には
この歌の重みは届かんかもしれんけど、
働き続けてきた人には、
胸の奥であたたかく灯る。
ミランの閉店後、
グラスの水滴が乾くのを眺めながら、この曲を聴くと、
「今日もちゃんと生きたな」と
小さく息がこぼれる。
働く夜の背中を、
そっと支えてくれる歌やと思う。
🍷 深夜の相棒
ここから下は、夜の店で僕が聴いたり読んだりしてる“静かな道具たち”。
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働いた夜、
店の静けさの中で聴くディランは、
すこしだけ世界をやわらかくする。
Text by Bob MyLan
巣鴨のワインバー店主より
