Seeing the Real You at Last

── 終わりを受け入れる歌

Bob Dylan
1985年、アルバム Empire Burlesque

この頃のディランは、
もう若くはない。

80年代の派手な音、
時代のうねりの真ん中にいながら、
この曲だけは、
ひとりの男が静かに椅子に腰かけて、
「終わり」を受け入れているみたいに聞こえる。


Well, I thought that the rain would cool things down
But it looks like it don’t

雨が降れば、
少しは落ち着くと思ってた。
でも、全然やったな。

肩をすくめて、
ちょっと笑ってるような声。

嘆きも、怒りも、
もう出尽くしたあと。


この曲が描いてるのは、
恋の終わりやけど、
悲しみよりも、
どこか安堵が勝ってる。

I’m just glad it’s over

「終わってよかった」。

若いころのディランなら、
たぶん言わへん言葉や。


Didn’t I risk my neck for you
Didn’t I take chances?

首まで突っ込んで、
チャンスも全部使った。

それでも、
報われなかった。

けど、
後悔してる感じはない。

彼はもう、
自分の不器用さを
責めてない。


I’m hungry and I’m irritable
And I’m tired of this bag of tricks

駆け引きにも、
見栄にも、
もう疲れた。

ちゃんと腹が減って、
ちゃんと苛立って、
それでええやんか。

そう言ってるみたいや。


Whatever you gonna do
Please do it fast

もう引き延ばさんでええ。
決めるなら、
さっとやってくれ。

最後の別れの場面に、
ドラマはない。

涙も、怒鳴り声もない。

あるのは、
ゆるやかな解放。


Seeing the real you at last

幻でも、
理想でもなく、
やっと現実の相手を見ている。

それは相手の話でもあるし、
自分自身の話でもある気がする。


店を閉めて、
ワインを片付けて、
照明を少し落とす。

雨が窓を叩く音と一緒に、
この曲を流す。

派手なサウンドの奥に、
小さな吐息みたいな誠実さがある。

もう壊さなくていい。
もう追いかけなくていい。

現実のままで、
十分や。


今夜の一曲

Seeing the Real You at Last
(アルバム Empire Burlesque 収録)

夜の静けさの中で、
ディランの声が、
ひとりごとみたいに響く。

もう理想はいらない。
現実のままで、
ほんまに、十分や。