ストレートな、I want you
(ディランはいつだってそうや)
この曲が流れると、
空気がちょっとだけ前に出る。
押しつけがましくはないけど、
引く気もない。
1966年。
『Blonde on Blonde』の中でも、
この曲は一番まっすぐや。
比喩も多いし、登場人物もぐちゃぐちゃやのに、
言ってることは一行で済む。
I want you.
I want you, I want you, I want you
So bad
恥ずかしいくらい正直。
でも、ディランはここで一切ごまかさない。
詩人やのに、
哲学も宗教も一旦置いて、
ただ「欲しい」と言う。
若さというより、
覚悟に近い。
この曲に出てくる人物たちは、
みんな少し壊れてる。
The guilty undertaker sighs
The lonesome organ grinder cries
罪悪感、孤独、ため息。
それでも彼は言う。
I want you.
世界がどうであれ、
自分の欲望だけは嘘をつかない。
そこがこの曲の潔さ。
Now your dancing child with his Chinese suit
He spoke to me, I took his flute
何を言ってるのか、
正直よく分からない。
でも、映像は浮かぶ。
意味よりもリズム。
理屈よりも衝動。
恋って、だいたいそうや。
グラスを拭きながら聴くと、
この曲は軽やかで、
でも芯がある。
甘いだけじゃない。
少し不安定で、
少し危うい。
それがちょうどええ。
I want you, I want you, I want you
So bad
Honey, I want you
最後に “Honey” を足すところが、
ディランらしい。
強がりのあとに、
一瞬だけ弱さを見せる。
それで全部が人間になる。
この曲は、
恋の歌というより、
欲望を肯定する歌やと思う。
きれいに説明できへん気持ちを、
きれいにまとめようとしない。
ただ、そのまま差し出す。
ワインも同じ。
香りや余韻を語るより、
「これ、好きやねん」でええ夜がある。
静かな時間にこの曲をかけると、
場の空気が少しだけ動く。
誰かの気配が近づく。
それくらいで、ちょうどいい。
🎧 今夜の一曲
▶︎ Bob Dylan “I Want You”
▶︎ アルバム『Blonde on Blonde』
🍷 今夜のワイン
軽やかで、
果実味が前に出る赤。
深く考えず、
一口目で「ええな」と思えるやつ。
I want you。
それ以上でも、それ以下でもない。
ディランがこんなふうに歌った夜、
きっと世界は少しだけ
シンプルになってたんやと思う。
