本当の君を見てしまった夜
Bob Dylan “Seeing the Real You at Last”
1985年、アルバム『Empire Burlesque』。
ディランはもう若くない。
派手な時代の波の中で、
それでもひとりの男として、
静かに“終わり”を受け入れるように歌っている。
Well, I thought that the rain would cool things down
But it looks like it don’t
雨が少しは冷ましてくれると思ったのに、
まるで効かない。
肩をすくめながら、
小さく笑っているような声。
恋の終わりを描いてるのに、
悲しみよりも安堵が勝っている。
From now on I’ll be busy
Ain’t goin’ nowhere fast
I’m just glad it’s over
And I’m seeing the real you at last
「Glad it’s over」――
終わってよかった、って言える強さ。
若いころのディランにはなかった言葉や。
いまの彼は、
壊すことより、終わらせることの意味を知ってる。
Didn’t I risk my neck for you
Didn’t I take chances?
愛のために首まで突っ込んで、
それでも救われなかった。
けど、後悔もない。
彼はもう、自分の不器用さを責めない。
I’m hungry and I’m irritable
And I’m tired of this bag of tricks
駆け引きや見栄に飽きて、
ただ素のままでいたい。
そんな気分がこの歌の奥にある。
どこかで彼は笑ってる。
「もうええやろ」って。
Whatever you gonna do
Please do it fast
I’m still trying to get used to
Seeing the real you at last
最後の別れの場面。
怒りも涙もない。
ただ、ゆるやかな解放。
ほんまの姿を見て、
やっと静かになれたような声や。
ワインを片付けて、
照明を少し落とす。
雨が窓を叩く音と一緒に、
この曲を流す。
派手なサウンドの奥に、
小さな吐息みたいな誠実さがある。
“Seeing the Real You at Last”。
彼は幻でも理想でもなく、
現実の愛をようやく見つめている。
🎧 今夜の一曲
▶︎ Bob Dylan “Seeing the Real You at Last” – Amazon Music
▶︎ 『Empire Burlesque』 – Spotify
🍷 今夜のワイン
赤い果実とほのかなスパイス。
少し冷やして飲むと、
この曲の“やれやれ”みたいな余韻とちょうど合う。
夜の静けさの中で、
ディランの声がひとりごとのように響く。
もう理想はいらない。
現実のままで、十分や。
